日本酒醸造に適した麹を作りたい

去年の末に黄麹菌を買って何度か試したがなんだかうまく行かず。
おかしいなぁと思いつつ半年経ってパッケージに「醤油・赤味噌用」と書いてあることにやっと気づいた。
アホなのか…🤦‍
そこで甘酒用の種麹を書い直して再度やってみたらうまく行った。
一応麹を作ることに成功したので、日本酒醸造の観点から麹について調べた。

注:日本酒醸造に適した麹を作ることは合法だけど、その麹を使って糖化・アルコール発酵させたら違法なのでやらないように。

麹の主な酵素

デンプンを糖に変えるアミラーゼ。
タンパク質をアミノ酸に変えるプロテアーゼ。

・αアミラーゼ
米を液化する。
デンプンをデキストリンに分解する。

・グルコアミラーゼ
デキストリングルコースに分解する。

・酸性プロテアーゼ
タンパク質をペプチドに分解する。

・酸性カルボキシペプチダーゼ
ペプチドをアミノ酸に分解する。

分子がお酒に与える影響

デキストリンは、雑味を感じさせ味を重くする効果がある。(*1)
グルコースは、酵母に分解されアルコール発酵する。
ペプチドは、苦味、えぐみ、雑味を呈する。(*2)
アミノ酸は、味の濃淡や貯蔵時の着色等に関係し、旨味やコク、味幅を与える。多過ぎると雑味。(*3)

きれいな吟醸酒を作りたい場合、グルコアミラーゼの数値が高くそれ以外の数値が低い麹菌が良い。

難消化デキストリンというのはトクホで認められているものらしい。
ということは、高αアミラーゼの麹で日本酒を作ればトクホ飲料になる…?(不明)

(*1)
デキストリン濃度の低い清酒製造技術の開発
https://www.pref.ehime.jp/h30112/sangiken/shokuhin/report/documents/no54_3.pdf

(*2)
平成 20~22 酒造年度東京都産清酒の呈味に関する特徴解析
http://www.food-tokyo.jp/research_record/papers_pdf/paper_8_35_2013.pdf

(*3)
清酒に含まれるアミノ酸の分析について
http://aichi-inst.jp/shokuhin/other/up_docs/news1607-2.pdf

具体的な力価

酒造教本では以下のように定義されている。

分子 酒造場の麹の力価の範囲 望ましい力価
αアミラーゼ 870〜1,700 1,000
グルコアミラーゼ 125〜310 250
酸性プロテアーゼ 2,700〜4,300 4,000
酸性カルボキシペプチダーゼ 3,300〜7,600 -

実際の力価を公開しているメーカーもあったが、吟醸系によく使われる白夜やハイGなどは公開されていないようだった。
福島県のハイテクプラザが公開した白夜の力価は以下。(*4)
測定方法や単位が違うのか全体的に数値が低いが、相対的にグルコアミラーゼが多い。

分子 力価
αアミラーゼ 510
グルコアミラーゼ 272
酸性プロテアーゼ -
酸性カルボキシペプチダーゼ 3,200

種麹・総合微生物スターターメーカー 秋田今野商店
http://www.akita-konno.co.jp/seihin/01.html

清酒用種麹│種麹・種麹もやしから醤油・味噌・清酒・調味料まで
http://www.nihonjouzou.co.jp/products/seishu/

清酒用種麹|種麹(麹菌)の研究・製造 ビオック
http://www.bioc.co.jp/products/tanekoji/seisyu.html

(*4)
短時間製麹における酒質への影響
http://www4.pref.fukushima.jp/hightech/publicity/uploads/rep_rd29.pdf

種麹の形態

種麹には、粉状のものと粒状のものがある。
機械化されている酒蔵では粉状の種麹を使うことも多いらしい。
手作業でやっている酒蔵や吟醸系に使う麹造りの場合は粒状の種麹を使うらしい。
今までいくつか酒蔵を見せてもらった限りでは、粒状のものを使っている印象。

一般家庭用にECサイトで売っている種麹の多くは粉状のもののようだ。
粉状のものは、粒状種麹から胞子のみを回収しそれにα化デンプンなどを加えられている。(*5)
素人でも失敗せず簡単に麹造りが出来るように調合されている模様。

粉状種麹で麹造りしてみた感じ、蒸米の内側に破精るというよりはふわふわで総破精。
極端な話、種麹と配合されたデンプンのふたつで成長し、蒸米はただそれに覆われている感覚。
日本酒作りに向く感じの突き破精にはならなそうな印象。
もしかして蒸米がなくても、粉状種麹に水分と熱を加えればスポンジとかでも破精るのでは…?(不明)

(*5)
種類と形態|種麹(麹菌)の研究・製造 ビオック
http://www.bioc.co.jp/about_tanekoji/type.html

種麹の用途と選び方

甘酒用とされているものは、糖化型でアミラーゼ強め。
味噌・醤油用とされているものは、旨味型でプロテアーゼ強め。
「万能」「幅広い用途」とされているのは中間くらいなのではなかろうか。

マニアックすぎるのか、一般家庭用に販売している粉状種麹は力価が公表されていない。
甘酒に向き、味噌・醤油に不向きとされているものを選ぶ他ない。

かわしま屋で売っている種麹で、力価が公表されているものを一覧にした。

メーカー:秋田今野商店。

商品名 グルコアミラーゼ αアミラーゼ 中性プロテアーゼ 酸性カルボキシペプチダーゼ
白麹雪こまち 470 2,230 85 18,000
醤油1号菌 284 2,057 291 -
豆味噌用 68 375 141 39,100

メーカー:日本醸造工業株式会社。

商品名 プロテアーゼ α-アミラーゼ グルコアミラーゼ グルタミナーゼ
EM-2号菌 ★★★★★ ★★★★☆ ★★★★☆ -
MP-01菌 ★★★☆☆ ★★★☆☆ ★★★☆☆ -
九州麦味噌菌 ★★★☆☆ ★★★★☆ ★★★☆☆ -
特性麦味噌菌 ★★★★★ ★★☆☆☆ ★☆☆☆☆ -
特性豆味噌菌 ★★★★☆ ★★★☆☆ ★★☆☆☆ -
MC-01 ★★★★☆ ★★★☆☆ - ★★★☆☆

酒造教本の数値と相対的に近いのは白麹雪こまち。
でもやっぱり酸性カルボキシペプチダーゼが高めで醸造用にはあまり向かなそう。
ECサイトでは吟醸系の高級酒を作れるようなグルコアミラーゼの高い種麹はおろか、一般的な醸造に適した種麹は売っていないようだ。

種麹(もやし、種菌)の販売 かわしま屋
https://kawashima-ya.jp/?mode=cate&cbid=1528376&csid=1

種麹・総合微生物スターターメーカー 秋田今野商店
http://www.akita-konno.co.jp/seihin/02.html

味噌用種麹│種麹・種麹もやしから醤油・味噌・清酒・調味料まで
http://www.nihonjouzou.co.jp/products/miso/index.html

グルコアミラーゼ力価を上げる製麹方法

・突き破精麹を作るために種麹の散布量を減らす。
・32~35度の温度帯はプロテアーゼが良く出るので、その温度帯を早く通過させる。

多分もっといろいろあるんだろうけど、素人なのでそれ以上のことはよくわからない。

杉錦 生酛(生もと)・山廃造り、純米みりん「飛鳥山」 : こだわりの酒造り
http://suginishiki.com/brewing-pride

現役蔵人が語る。大吟醸の麹造り - その3:仲仕事(なかしごと) - | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」
https://jp.sake-times.com/think/study/sake_g_daiginjo_kouji_3

種麹・総合微生物スターターメーカー 秋田今野商店
http://www.akita-konno.co.jp/column/021-030.html

褐変・黒粕の原因と対策

吟醸系に適した麹菌を使うと酒粕が黒くなる。
グルコアミラーゼ高活性株は、同時に高チロシナーゼ活性を示し、麹(最終的には酒粕)を褐変させることが知られている。
チロシナーゼは紫外線を浴びることで活性化し、メラニンをつくり出す。
このメラニンが褐変・黒粕の原因らしい。
グルコアミラーゼ活性が高いとなぜチロシナーゼ活性も高くなるのか、ふたつの関係性は調べてもよくわからなかった。

対策としては以下のいずれか。
・非褐変性の種麹(チロシナーゼを生産しない麹菌)を使う。
・醪にメタ重亜硫酸カリウムを添加する。
・紫外線に当てない。

酒粕は色白がお好み?麹菌がつくるチロシナーゼを発見 | バイオの研究 | 月桂冠総合研究所 | 月桂冠
https://www.gekkeikan.co.jp/RD/bio/bio04/

黒粕防止のためのメタカリ(メタ重亜硫酸カリウム)使用量について | 公益財団法人 日本醸造協会
https://www.jozo.or.jp/topics/%E9%BB%92%E7%B2%95%E9%98%B2%E6%AD%A2%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%AA%EF%BC%88%E3%83%A1%E3%82%BF%E9%87%8D%E4%BA%9C%E7%A1%AB%E9%85%B8%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6/