醤油用の麹造り

丸大豆醤油を仕込むことにしたので醤油用の麹造りについて調べた。
日本酒造りの知識をベースに解釈していく。

調べ方が悪いのか、J-Stageで論文を探しても日本酒よりも情報が少ない気がする。
その中でも多くが脱脂加工大豆を用いた醤油造りについてで、丸大豆を用いた醤油造りに関しては特に少なめな印象。

原料と原料処理

日本酒用の米麹の場合

原料は、米、アミラーゼ力価の高い黄麹の種麹。

米を浸漬させ27%程度吸水させ、米を蒸す。
種麹を蒸米に振る。
その後、温度管理を行う。

醤油用の大豆麹の場合

原料は、大豆、小麦、プロテアーゼ力価の高い黄麹の種麹。

大豆を一晩浸漬させて115%程度吸水させ、大豆を蒸す。
小麦を炒って砕き、種麹を混ぜる。
蒸した大豆に、炒って砕いた小麦と種麹を混ぜる。
その後、温度管理を行う。

浸漬歩合について。

一般に丸大豆の浸漬は原大豆の約2.2から2.3倍に膨潤するまで行うのが良いとされており,浸漬に要する時間は10℃で16時間,15℃で13時間,20℃で10時間,25℃で8時間程度が適当である(第1図)。
この条件では米国産丸大豆の吸水率は115%まで達し,また蒸煮圧2.0kg/cm2まで充分蒸煮が可能である。
醤油の丸大豆仕込みについて P624

大豆の浸漬時間を生み出す方程式。
それは、『30-水温=浸漬時間』。
30というのは基準値として前提にあり、そこから大豆を浸漬する水の温度を引くと浸漬すべき時間が算出できる、という魔法のような計算式です。例えば、水温が18度だとすると、大豆の浸漬時間は12時間でよいことになります。
大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(前編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

小麦を炒る目的について。

小麦処理の主な目的は,原料の熱殺菌もさることながら,多量に含まれる小麦でんぷん質のα化によって,麹菌のアミラーゼの作用を受け易くすること,および粉合せ工程での蒸煮大豆に付着性をよくすることにより表面水分を調節して麹の雑菌汚染を抑制し,製麹操作を安全に容易にする事などがあげられている。
しょうゆの基本技術 (その1)原料処理から製麹まで P44

原料割合と醤油の種類

大豆と小麦の原料割合によって醤油の種類が変わる。

以下のように分類される。

大豆:小麦 種類
100:0 〜 70:30 たまり醤油
60:40 〜 40:60 濃口醤油、薄口醤油、再仕込み醤油
30:70 〜 10:90 白醤油

仕込みの熟成期間に関しては、小麦の割合が少ない程長くなる。
白醤油が0.5〜1年、たまり醤油が2〜3年。

しょうゆ醸造における原料配合と小麦の問題点 P18
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/76/1/76_1_18/_pdf

醤油の種類 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!
https://www.s-shoyu.com/knowledge/0301

原料の役割

大豆は麹菌によってタンパク質がアミノ酸へと分解され旨味となる。
小麦は麹菌によってデンプンがブドウ糖へと分解され甘みや香りとなる。

小麦を砕く理由は2つ。
細かい粒子で大豆同士の付着を防ぐ。
粗い粒子で大豆同士の間に隙間を作り、通気性をよくして麹菌の育成を助長、品温調節をやりやすくする。

大豆のたんぱく質がうま味成分のアミノ酸に分解され、小麦のでんぷんが甘味や香りのもとになるブドウ糖に分解されます。
醤油の原材料 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!

麹菌が出す酵素が働きやすくなるように、栄養源となる役割も小麦にはあります。味噌にも米や大麦が入っている米みそ・麦みそがありますが、これも大豆だけだとなかなか分解が進まないため、酵素の働きをよくするために入れられている面もあるのです。
実際普通の醤油の熟成期間が半年程なのに対し、小麦を使わないもしくは使っても少量だけのたまり醤油は、熟成期間が非常に長く2年から3年かけて出来上がります。米や大麦を使わない豆味噌(八丁味噌)の場合も同様です。
またブドウ糖は、乳酸菌と酵母によってアルコールや乳酸になり、しょうゆの味と香り成分に繋がっていくのです。なので、もし小麦が入っていなかったら、普段使っているような醤油の甘みや香りといったものは出来てこないことになります。小麦はやはり必要な原料なんですね。
醤油の原材料表示の謎を紐解く ~その1:なぜ小麦が必要なのか?~ | 旅する食卓 - table trip

割砕は4~5つ割の粒子(特に皮目の部分)と細かい粉状の粒子とがそれぞれ必要量共存する様に,二極化した作業が要求される。
割砕された細かい粒子は粉合せ作業の際,蒸煮大豆に付着して表面を被覆して表面水分を低下させ,ねばつかせずさらさらにして細菌の汚染や蒸煮大豆粒子相互の粘着を防止し,麹菌生育の表面積の確保に貢献している。
一方では粗い粒子は蒸煮大豆間に分散介在し空隙を作り,その結果通気性がよくなって麹菌の生育が助長され盛込原料の平均化がはかれ,品温調節もやりやすくなる。
しょうゆの基本技術 (その1)原料処理から製麹まで P46

目標水分量

盛り込み時:40.7%
2番手入れ:34.4%
出麹:27.6%
醤油の丸大豆仕込みについて P625 第3表

これは浸漬して蒸して倍以上に増えた大豆と炒って水分の抜けた小麦を合わせたものを計算しているのではないかと思う。

例えば大豆1kgと小麦1kg(原料割合50:50)で濃口醤油を作るとして、蒸し大豆2kg、炒り小麦0.8kgになった場合、
(2 + 0.8) / (1 + 1) = 1.4
と水分量40%となるため、だいたいそれっぽい数字になる。

(※追記:間違っていたので訂正→ 醤油造りの仕込み配合の重量換算と塩分濃度の計算 - よしだ’s diary)

ということは小麦の割合の低いたまり醤油を作る場合、浸漬時間を短くしたり放冷をきっちりやるなどして水分量を目標値に合わせに行く必要があるのだろうか…?(不明)

たまりしょう油醸造の現状
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/10/71_10_750/_pdf

手入れの用語と温度管理

お米と大豆では保つ温度帯も違えば手入れの呼び方も違う。

米麹の場合

引き込み、床揉み、種切り、切返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事、最高積替、出麹。
32度くらいで引き込みをして、40度を超えたあたりで出麹、と徐々に温度を上げて出麹を迎える。
アミラーゼ力価を強くするために、プロテアーゼ力価が強くなる32~35度の温度帯を早く通過させ高温を保つ。

豆麹の場合

盛り込み、1番手入れ、2番手入れ、出麹。
28〜30度くらいで盛り込みをして、28〜30度くらいで出麹、と温度を低めに保って出麹を迎える。
大豆は雑菌に弱いので品温を30度以下に保つ必要がある。
30度前半の温度帯であればプロテアーゼ力価が強くなるので旨味の強い麹になる。

手入れの呼び方が米麹のように事細かではないのは、米麹のように温度帯の振れ幅が少ないからだろうか。

以下は具体的な経過の例。

しょうゆの基本技術
(その1)原料処理から製麹まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/1/93_1_42/_pdf/-char/ja

たくさんある「麹の造り方」を理解するための話と、色々な「麹の造り方」|村井裕一郎|note
https://note.com/ymurai_koji/n/nda5f61f93653

天然醸造と速醸

ここからは製麹ではなく諸味の話。

日本酒で速醸と言えば、酒母に乳酸を添加することを指す。

醤油で速醸と言えば、乳酸菌や酵母を添加して温度を操作する醸造手法を指す。
天然の微生物が住み着かないステンレスのタンクなどで作られる。
醸造期間は半年程度。

天然醸造とは、乳酸菌も酵母無添加、温度管理も自然に任せる醸造手法。
天然の微生物が住み着く木桶などで作られる。
醸造期間は1〜2年程度。
日本酒で言うと酵母無添加生酛造りと言ったところだろうか。

酵素添加による速醸法というのもあるらしい。
醸造期間は2週間程度。
日本酒で言うと酵素剤を使った普通酒のような作り方だろうか。

酵素添加による速醸法
仕込工程初期に酵素剤を添加することで醸造期間を短縮する技術がある[50]。しかし、この場合は醤油業中央公正取引協議会の業界基準により、製品表示に「天然」「生」等の用語を利用することができない。
醤油 - Wikipedia

「笛木醤油」は、木の桶で2年間発酵・熟成…代々受け継がれた醸造方法とは | 無料のアプリでラジオを聴こう! | radiko news(ラジコニュース)
https://news.radiko.jp/article/station/FMJ/34076/

参考文献

論文とか

しょうゆの基本技術
(その1)原料処理から製麹まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/1/93_1_42/_pdf/-char/ja

しょうゆの基本技術
(その2)仕込みから製成まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/2/93_2_120/_pdf/-char/ja

醤油の丸大豆仕込みについて
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/82/9/82_9_623/_pdf/-char/ja

しょうゆ醸造における原料配合と小麦の問題点
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/76/1/76_1_18/_pdf

たくさんある「麹の造り方」を理解するための話と、色々な「麹の造り方」|村井裕一郎|note
https://note.com/ymurai_koji/n/nda5f61f93653

基礎の基礎 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!
https://www.s-shoyu.com/foundation/know01

大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(前編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」
https://haccola.jp/2018_07_05_7487/

大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(後編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」
https://haccola.jp/2018_07_21_7638/

醤油蔵の動画

How Soy Sauce Has Been Made in Japan for Over 220 Years — Handmade
https://www.youtube.com/watch?v=P6bk_AGu5mw

醤油の作り方 弓削多醤油「醤遊王国」の紹介 How it’s made soy sauce: Introduction of Yugeta Shoyu
https://www.youtube.com/watch?v=bW7zGb6gI8o

【2020年】八木澤商店の大原工場【しょうゆができるまで】
https://www.youtube.com/watch?v=jyWqGsXW4Rw

弓削多醤油(埼玉県坂戸市)の醤油蔵見学
https://www.youtube.com/watch?v=mAnLSE8ebXc

家庭向け醤油の作り方

豆麹の作り方|はじめてでも分かりやすい動画つき -Well Being -かわしま屋のWebメディア-
https://kawashima-ya.jp/contents/?p=671

醤油作り
http://www.ajiwai.com/otoko/make/syou.htm

2018年、醤油作りの第一弾!長白菌で醤油を作ってみた。 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce2/

2018年醤油仕込み第二弾!強力粉の量を減らしてみた - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sause-2018/

醤油の材料【大豆・小麦・麹菌】について知ると手作りの楽しみ倍増 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce-material/

家庭で作る!自家製醤油の作り方【小麦粉を使って・発酵器はなし】 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sause-matome/

大豆300gフードコンテナとオーブンで醤油作り - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce-small/

豆麹作りに挑戦! - オトコ中村の楽しい毎日
https://otokonakamura.com/mamekoji/