紹興酒の造り方の考察

信憑性の高い一次情報しか信じないぞという強い気持ちを持って中国語のサイトとJ-Stageでちゃんと調べた。
黄酒(紹興酒)の造り方について、日本酒醸造の知識と照らし合わせてまとめた。
複数の情報源からまとめているので一部重複する内容や説明が前後する箇所あり。

黄酒の造り方

何はともあれWikipedia(中国版)を参考にする。

Google翻訳とDeepLを使いつつ手直し。
用語は適宜それっぽく日本酒用語に置き換え。

一般に黄酒は、米を煮て麦曲と酵母を加え、前・後発酵の2段階を経て圧搾して完成品とするもので、次のような工程を経て製造されます。

# 工程 概要
1 材料の選択 さまざまな品種で必要な穀物を選別します
2 浸漬 選択した穀物を浸す
3 蒸米 浸した穀物を蒸します
4 放冷 蒸した穀物を冷却
5 摊饭 麹と冷やしたご飯を混ぜる
6 前発酵 麹を混ぜたご飯を水槽に入れて発酵させます
7 櫂入れ 発酵タンクで醪をかき混ぜて、タンク内で上下に均等に発酵させます
8 後発酵 瓶を使用して空気の接触面積を減らし、発酵効果を向上させます
9 絞り 完全に発酵した醪に圧力をかけ、酒粕と原浆酒に分離させる
10 煎酒 白色の原浆酒を色が濃い半製品に変わるまで加熱します
11 ブレンド 煎酒を凝縮するときに揮発した蒸留アルコールを収集してブレンドします
12 澱引き・濾過 ブレンドされた半製品は、低温で2〜3日間澱引きされた後、再度濾過されます
13 火入れ 加熱・殺菌することで、ワインの沈殿物を同時に固化させ、さらに澱引きすることができます
14 梱包と保管 滅菌後、熱いうちに詰め、種類に応じて保存し、アルコールと酸のエステル化を促進して味を良くします

米酒は黄酒に比べて製造工程が単純で、個人の職人による製造は最初の6工程と最後の1工程のみであり、その結果、製品の賞味期限は短くなる。
一方、工業的に大量生産される米酒は、醸造工程が一度だけで、その他は黄酒醸造と同様であるため、職人の個人醸造品よりも賞味期限が長いのです。

黄酒を造るには発酵が重要で、温度やエアレーションをコントロールして、さまざまな微生物のバランスを調整しながらもろみを発酵させる。
醪が酸っぱくなるのを防ぐのがポイントです。
糖化と発酵が同時に行われ、高濃度の糖が生成されず、酵母へのダメージが緩和され、曲と米が酵母の増殖と発酵を促進し、米のタンパク質とビタミンBが高度アルコールなどの有害副産物を除去しやすくします。
15℃での長い後発酵により、18〜20%のアルコールが生成されます。

水は重要な原料の一つであり、伝統的な紹興酒の製造方法においても、もち米を浸漬してできる酸水(浆水)の一部を使用してもろみの酸度を調整し、酵母が必要とする栄養分や成長因子を補って、酒の香りを高めている。

最高の黄酒はもち米から作られる。
もち米のでんぷんの98.8%はアミロペクチンで、樹枝状構造で分子量が大きいため、吸水が早く糊化しにくく、可溶成分が多く、まろやかな味わいの黄酒に仕上がります。
ジャポニカ米とインディカ米のでんぷんはアミロースを20〜30%含んでおり、蒸したときに吸水性が高く、米が緩み、軽い味わいの酒になるのが特徴です。
即墨や大連では、原料にアワ米を使い、水で焦げ目がつくまであぶり、熱湯で煮てデンプンを溶かし、酒に独特の焦げの風味を与えている。

曲は黄酒製造の糖化剤として使用されるが、一部の曲には発酵作用もあり、酒の香りや風味に重要な役割を果たす。
品種には、麦曲、酒薬、紅曲などがあります。
コウジカビ、クモノスカビ、酵母の増殖により、液化や糖化の役割を果たすアミラーゼ酵素が生成されます。
酒薬(小曲)は、米粉、米ぬか、ふすまに麹の種を加え、適量の水を加え、よく混ぜて麹の粒を作り、それを育てて保湿します。
主な微生物はクモノスカビと酵母で、中国独自の菌株保存法です。
使用量は原料米の0.3〜0.6%で、米と混合し、酒中の微生物を適切な条件で増殖させ、糖化・発酵させて、甜酒酿(発酵もち米)、淋飯酒母、甜型黄酒、米白酒などを製造する。
紅曲は、米を浸漬して蒸し、ベニコウジカビの種子を加えて培養した紫紅色の米曲です。
福建省浙江省南部では醸造用の主な糖化剤、発酵剤となっている。
福建省古田県で生産される紅曲が有名です。

伝統的な醸造法では、「淋飯酒母」を使って精製した酵母の自然培養を行います。
醸造工程での発酵もろみの酸敗を防ぐため、機械化生産には純粋培養した酒母を使用します。

黄酒 - 维基百科,自由的百科全书

米酒の説明にある「個人の職人による製造」というのは家庭で自家醸造したものを指すのではないかと思う。

煎酒ブレンド

10〜11番の煎酒ブレンドは日本酒にはない概念。
絞ったばかりの熟成していない白色の原浆酒を煮詰めて、その際に揮発した蒸留アルコールを収集する。
煮詰まった黄酒に戻してブレンドする。
蒸留を目的としている訳ではなく、気化温度が水よりもエタノールの方が低いので飛んだものを液化して戻す、ということかと思う。

原浆酒

上の説明を見るに原浆酒とは「発酵が終わった醪を絞った液体」を指す模様。
日本酒でいうところの「原酒」だと思う。

日本酒の原酒は加水していないことを指すけど、
黄酒の原浆酒は上の工程を見るに煎酒ブレンドする前のものを指す。
煮詰める前のものを指すのか、原浆酒を煎酒した時に収集した蒸留アルコールを戻す前のものを指すのかは不明。

以下Google翻訳とDeepLを使いつつ手直し。

原浆酒とは、穀物を酒曲で発酵させて作られた原酒で、全くブレンドされていないものをいう。 1960年代以前は、伝統的な意味での中国酒は原酒というカテゴリーに属していた。
原浆酒について話す前に、まず「浆」の意味を理解する必要があります。「浆」は比較的濃い液体を指します。
原浆酒_百度百科

言葉の意味としては「ブレンドしていない濃い酒」のことらしい。
逆に、ブレンドしたものは「勾兑酒」と呼ぶ。
原浆酒や勾兑酒というのは主に白酒で使われる用語のようで黄酒に関する情報が出てこない。

白酒についての原浆酒と原酒は同じものなのか?については以下。
そのまんま翻訳すると原浆酒も原酒もどちらも「オリジナルワイン」と訳されてしまい非常に読みづらいけど。

原酒就是原浆酒吗?原酒可以喝吗? - 美酒网

酒母

酒母の種類

階層化するとこんな感じ。

  • 乳酸発酵系酒母
    • 浸麹酒母
      • 九醒春酒法
    • 酸漿酒母
      • 冬米明酒法
      • 醸白醪法
      • 酒麹秘方
    • 自然の生態系を利用する酒母培養法
      • 曝酒法
    • 淋飯酒母
  • 加酸系酒母

色々あって大変なので詳細は以下参照。

中国黄酒醸造における酒母造りの変遷

分類方法

酒母の手法の名前は、どのフェーズの特徴に重きを置いているかが端的に表されている。
pHを下げるフェーズ、糖化のフェーズ、酵母を培養するフェーズ、など。
そのため、手法が技術的に近いか遠いかは名前からは判断しづらい。

例えば、
浸麹酒母法は、麹を水に浸して乳酸菌とクモノスカビを生やすことに重きを置いた命名であり手法。
九醒春酒法は、米を9回に分けて米を入れる段仕込みに重きを置いた命名であり手法。

技術的な進化

煮沸すれば腐らないとか、低温で管理すれば雑菌が繁殖しないとか、そういうことが時代を経るごとに解明されていっている。
いくつかの酒母法を時系列順にピックアップ。
現代で使われている手法は、淋飯酒母、速醸複式発酵酒母、高温糖化酒母の3つ。

・浸麹酒母
漢代(紀元前206年-220年)から唐代(618年-907年)まで使われていた中国の最も古い酒母培養法。
生梗米で造った小麹と水で、乳酸菌とクモノスカビと酵母を培養する。
クモノスカビは生の穀物に生えやすいく糖化もアルコール発酵もするという性質を利用した原始的且つ最小構成での手法。

・酸漿を利用する酒母培養 - 冬米明酒法
「齊民要術」(530~550年頃の著作)に記されている手法。
精白した稲米とお湯と麹の粉末で、乳酸菌を生やす。
その乳酸菌の生えた液体(酸漿)に醸米を合わせて煮る。
煮沸消毒されたpHの低い液体が出来上がる。

・酸漿酒母法 - 酒麹秘方
栄代(960年-1279年)に生み出された手法。
水と精白した米で、低温で乳酸菌を生やす。
日本酒の菩提酛に近い。

・曝酒法
1116年頃。
現代黄酒淋飯酒母の原型と考えられている。
精米と酒薬と大麹で造る。
コウジカビが使われるようになった。
米が空気に触れる面積を広げて酵母をよく繁殖させるために「搭窩」という操作をする。

・淋飯酒母
現代でも紹興酒などで使われている手法。
精米と酒薬と麦麹で造る。
瓶に仕込む前に曲を作る手法。
この方法も「搭窩」を行う。
日本酒の山廃に近い。

・速醸複式発酵酒母
淋飯酒母を基にして市販乳酸の添加と酵母の純粋培養技術を取り入れて発展した酒母
日本酒の速醸酛に近い。

・高温糖化酒母
1970年代から機械化新式黄酒醸造法に使われて来た方法。
日本酒の高温糖化酛に近い。

原料

麹菌 / 麹

淋飯酒母の時代になって、酒薬にはクモノスカビ(リゾープス)を、麦麹にはコウジカビ(アスペルギルス)を使うようになった。
「日本酒はコウジカビ、紹興酒クモノスカビ」という説明はよく聞くし対比することでわかりやすさはあるけど現代の醸造方法の説明としては適切ではない。

酒薬にはリゾープスが使われる。

酒薬には根霉(Rhizopus),毛霉(mucor),酵母(天然酵母)が主要菌として存在し,
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

麦麹にはアスペルギルスが使われる。

麦麹は挽き割りの小麦に水を混ぜ稲藁で包んでアスペルギルス草包麹(図1)にしたり,レンガのように固めたアスペルギルスの大麹である。
はじめは草包麹を使って来たが,近頃アスペルギルス大麹は製造の効率が高く,貯蔵性や運搬性がよく,使い方も便利なので,アスペルギルス大麹(白酒に使う大麹はリゾープスを主体とするものでちがう。)を使うようになっている。
中国黄酒醸造における酒母造りの変遷 - 1 淋飯酒母

ということは前回まとめた「麹と曲の違い」では以下のように書いたが誤りということになる。
麦曲にはコウジカビが使われているので、コウジカビを表す「曲」という字が使われているので学名に沿った名称が付いていて正しい。
しかしコウジカビが使われるようになった曝酒法以前から曲と呼ばれていたようなので曖昧さは残る。

中国では、コウジカビを表す「曲」という字を使ってクモノスカビを繁殖させたもの(麦曲など)を表していることになる。
ややこしい…。
麹と曲の違いと酒税法上の扱い - よしだ’s diary

大麹やら小麹やらって言葉が何を指すのかいまいちわからないが、きっちり統一されていないらしい。
なので文脈から察するしかない。

中国特有の酒である黄酒や白酒の生産に用いられる諸原料の中で麹についての名称,原料構成,製法は,相似点と相違点が入乱れ難解であるが,用語の全国的統一が中国各地の相互の技術交流とその促進のため急速に行なわれつつあるものと思う。
しかし,広大な国土と歴史的伝統の深さゆえに統一化も簡単ではなかろう.
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

個人的な見解としては、紹興酒を作るにあたってはこんな感じかなと思う。合ってるかはわからん。
・小麹=生米にリゾープスが繁殖したもの。粉にして淋飯に振りかけるもの。酒薬。
・大麹=加熱した麦にアスペルギルスが繁殖したもの。原料として甕に入れるもの。麦曲。

酒薬

米粉とヤノギ蓼を混ぜたものにリゾープスと酵母を友麹させて丸めたもの。
リゾープスにはアルコール発酵の酵素もあるので酵母がいなくてもアルコール発酵はする。
酒薬は砕いて粉にして、淋飯した米に振りかけて更に繁殖させる。

酒薬は梗米粉にヤノギ蓼の粉を混ぜ,水で練り混ぜ,4cm位の餅状にしてから古い酒薬を友麹としてふりかけ,麹室でリゾープスと酵母を繁殖させた小麹である。
中国黄酒醸造における酒母造りの変遷 - 1 淋飯酒母

酒薬:酒薬は黄酒醸造に必須の原料で,一種の種麹と見るべきだろう。

酒薬には二種類ある。
i)白薬:白薬は米粉を辣蓼草の草汁でこね,これに古い酒薬を接種したもの。
ii)黒薬:黒薬は米粉に辣蓼草と数十種の中薬(杜仲・桂皮・洋草・良姜・草烏など)の浸出液を加えて成型したもの。

白薬は紹興酒醸造に使用され,黒薬は一搬に蒸留酒の製造過程で用いられる。
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

酒醸、酒酿とも言う。
酒醸は地域によっては甘酒を指すこともある。

酒釀 - 维基百科,自由的百科全书

麦麹(麦曲)

繁殖する菌は黄麹菌、ケカビ、黒麹菌。
麦麹の製麹には3週間かかる。

黄麹霉ってAspergillus flavusのことらしいけど、黄麹菌と解釈して読み進めていいんだろうか…?
ちなみにAspergillus oryzaeは中国語で「米麴菌」。

麦麹の生産に要する日数は三星期つまり三週間で,繁殖する菌類は前述の記文のごとくだが,黄麹霉,毛霉と黒麹霉と他書に記されている。
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

酒母

原料のサブ項目として酒母を入れるのはちょっと違うけど、原料のまとめとして便宜上ここに入れておく。

黄酒の酒母と日本酒の酒母は、製造工程の順序が同じではない。
カッコの優先度に注目。

・黄酒、淋飯酒母の場合。
(蒸米+酒薬)+浆水+麦曲

まずは冷やした蒸米にリゾープスと酵母を繁殖させる。
そこに浆水と麦曲を入れることで、pHを下げてアスペルギルスを加える。

・日本酒、速醸酛の場合。
水+米麹+蒸米+乳酸+酵母

順序は蔵によって若干違うかもしれないけど、だいたい同じタイミングで混ぜ合わせる。
目的としては、蒸米に麹の酵素を行き渡らせ糖化しやすくし、乳酸でpHを下げて酸で酵母が生きやすい環境を作る。

・日本酒、生酛/山廃の場合。
(水+米麹+蒸米)+酵母

まずは水+米麹+蒸米で、糖化を進めつつ乳酸菌を生やす。
乳酸菌がpHを下げて糖化酵素が糖度を上げて、酸と糖で酵母が生きやすい環境を作る。
環境が整ってから酵母を添加。

生酛の詳しい説明は以前書いた記事を参照。
生酛系酒母と天然醸造醤油の比較 - よしだ’s diary

まとめるとこうなる。
黄酒は、酵母を育ててからpHを下げる。
日本酒は、pHを下げてから酵母を育てる。

工程

淋飯酒と攤飯酒の違い

a 淋飯,灘飯は仕込の前,蒸米を一定の温度に冷却する操作を意味する。淋飯は冷水を注いで冷やし,灘飯は蒸米を竹薦にひろげ,冷気で灘鯨する。
b 淋飯酒は灘飯酒の酒母として用いる。
c 淋飯酒法は家庭的小規模の生産に適し,酒質は灘飯酒に及ばない。灘飯酒法は良質酒の大規模生産に向いている。
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

以下の古越龍山のサイトの情報を表でまとめる。
紹興酒の伝統的な製法

淋飯酒 攤飯酒
浸漬時間 約一日 約1週間
蒸米の冷やし方 水をかけて冷却 竹敷にひろげて自然冷却
仕込み 大甕に淋飯と酒薬(酵母)を入れて酒母を造り、その後に水と麦麹を入れる 攤飯に水、麦麹、淋飯酒(酵母)を入れる
発酵期間 1次発酵3日間、2次発酵約2週間 1次発酵5日間(30度)、2次発酵80日間(室外)

淋飯酒は別名「酒娘」とも言う。
灘飯酒は別名「大飯酒」とも言う。
黄酒工艺_百度百科

酒母 / 醪

淋飯酒は攤飯酒の酒母と言える。
とするならば攤飯酒は醪と言える。

淋飯酒は、お酒として飲む場合は絞って殺菌する。(現在は売られていない)
攤飯酒の酒母として使う場合は絞らない。

そのまま発酵させ、絞って殺菌したものを「淋飯酒」と言う。現在の紹興酒酒母(母体)として用いられる淋飯酒は、絞ったり殺菌したりしない。アルコール度数は低い。以前はよく飲まれていたが、アルコール度数が低く、味も薄いので、現在は販売されていない。
紹興酒 - Wikipedia

淋飯酒を日本酒でいうと「山廃酒母」もしくは「山廃、酵母仕込、1段仕込み」と言ったところだろうか。(そんな日本酒が製品として存在するかは別として)
攤飯酒は「淋飯酒+1段」と言える。

浸漬 / 放冷

日本酒と比べると浸漬時間がだいぶ長い。
この理由は以下のいずれかではないかと思う。
うるち米ともち米の差。
・ビシャビシャの方がリゾープスを繁殖させるのに都合が良い
・最終的にグチャグチャに溶かして味を濃くするため。

淋飯よりも攤飯の方が浸漬時間が長いのは、水を使わずに冷却するために浸漬の段階で水分量を多くしておくためかと思われる。
蒸し時間や放冷後の水分量が同じだとした場合、淋飯の方が芯の固い蒸米になると思われる。

蒸米の冷やし方は、攤飯は日本酒で言うと路地放冷にあたる。

仕込み

攤飯酒に使う蒸米の放冷方法は、酒母用は淋飯、段仕込み用は攤飯、となる。
米の役割としては、酒母用の淋飯は麹米、段仕込み用の攤飯は掛米に近い。
そう考えると役割に応じた蒸米の硬さにするために合理的に浸漬時間と放冷方法を変えていることがわかる。

そして浸漬に使った水は、(一部を)浆水として仕込みに使う。

淋飯酒の仕込み配合

糯米 144kg
麦麹 22.5kg
酒薬 187.5g~250g
水 180kg
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

酒薬の割合は、糯米量の0.13〜0.17%程度、総穀物量の0.11〜0.15%程度。
これは日本酒の酵母仕込の添えにおける酵母の割合よりも低い。
通常の酵母だと液体で比較しづらいし出典が見つからないので酵母仕込と比較する。

酵母仕込の場合の割合は、総米量の0.04〜0.06%程度。
3段仕込みのうち添えが総米の18%だと仮定すると、添えの米量の0.22〜0.33%程度。

仕込総米1t当たり400~600gの圧搾酵母(培養し固形化させた乾燥させていないもの)
酵母仕込 | 灘の酒用語集

水の割合は、総穀物量の107.98〜108.11%程度。
これは日本酒の酒母における汲水歩合よりも割合が低い。

日本酒の仕込み配合は以下参照。
仕込配合 | 灘の酒用語集

攤飯酒の仕込み配合

糯米 144kg
麦麹 22.5kg
酒母(淋飯酒) 5~8kg
水 112kg
漿水(浸米水) 84kg
中国の酒(その2)醸造酒-黄酒について

日本酒の仕込み配合と比較するために、まずは酒母(淋飯酒)に使われている穀物量を計算してみる。
酒母(淋飯酒)は仕込み配合から直接計算するとして、淋飯酒5~8kgに使われている穀物量は2.40〜3.84kg程度。
穀物のうち淋飯酒に使用される割合は1.42〜2.25%程度。
これを酒母歩合とすると、日本酒の酒母歩合よりも低い。

通常は、普通酒で7〜8%、吟醸酒で5〜6%ほど(普通速醸酒母の場合)
麹をたくさん使うと、どんな味の日本酒になる? - 「仕込み配合」を学ぶ | SAKE Street | プロも愛読の日本酒メディア

しかも日本酒の場合は3段仕込みのところ、攤飯酒では1段仕込み。
糖化酵素酵母は相当薄まるように思う。
そこで役に立つのが浆水と仕込み後の加熱。
浆水でpHの低い状態を保ち、30度まで温度を上げて一気に酵母を活性させているのかなと思う。

穀物量から酒薬の割合を計算してみる。
淋飯酒5~8kgに使われている酒薬は2.70〜5.77g程度。
穀物量に対する酒薬の割合は0.000016〜0.000021%程度。
これは酒母仕込みの総米に対する酵母の割合よりも低い。

汲水歩合は117.58〜133.22%程度。
日本酒の汲水歩合よりも低い。

汲水歩合は125~135%が標準である。吟醸酒などでは、140%以上に達することもある。
汲水歩合 | 灘の酒用語集

発酵期間

淋飯酒は、1次発酵3日間、2次発酵約2週間。
攤飯酒は、1次発酵5日間(30度)、2次発酵80日間(室外)。

淋飯酒を山廃酒母、攤飯酒を醪と捉えた場合、
酒母期間は日本酒よりも短く、醪期間は日本酒よりも長い。

この1次発酵2次発酵というのは古越龍山のサイトでの表記だが、最初に書いた前発酵と後発酵と同じ意味と思われる。
室外が30度より高いのか低いのかよくわからないが、おそらく室外の方が寒いんだろうと思う。
攤飯酒1次発酵の30度というのは日本酒の温度管理よりも高いが、日本酒でいうところの段仕込みの添えから留めまでの期間で温度を高くするのと同じ理由かと思う。

日本酒との比較まとめ

仕込み配合の比較。

紹興酒 日本酒 比較
淋飯酒 酵母仕込の添え
酒薬(酵母)の割合 糯米量の0.13〜0.17%
穀物量の0.11〜0.15%
添えの米量の0.22〜0.33%
汲水歩合 穀物量の107.98〜108.11% 130%前後(要出典)
淋飯酒 酒母
麹歩合 13.51% 33.57%
攤飯酒 酵母仕込の留め
酒薬(酵母)の割合 穀物量の0.000016〜0.000021% 総米量の0.04〜0.06%
攤飯酒
酒母歩合 1.42〜2.25% 5〜8%
汲水歩合 117.58〜133.22% 125~135%
吟醸酒 140%
麹歩合 13.51% 16.87%

発酵期間の比較。

紹興酒 日本酒 比較
淋飯酒 山廃酒母
発酵日数 1次発酵3日間
2次発酵約2週間
約30日
攤飯酒
発酵日数 1次発酵5日間(30度)
2次発酵80日間(室外)
添仲留4〜5日
醪日数20〜30日

あとがき

日本酒醸造をある程度知る身としては、手法が定着した技術的背景を含め概ね紹興酒の作り方は理解できたかなと思う。
正直長過ぎて疲れたので、今後気になったことや漏れがあった場合は後日書こうと思う。

日本酒醸造についても言えることだけど、伝統的(乳酸や酵母無添加、無農薬、杉樽を使う等)だから良いものだとか、工業的(速醸や高温糖化酛、アル添等)だから悪いものだというものではない。
消費者が言えることなんて所詮は「自分にとって好きか嫌いか」という主観だけ。
作る側は何かしらの意図や目的を持って技術や手法を選択しているので、そこに対しての理解と共感なくして外野が甲乙を付けることは出来ない。