なぜ麹造りの湿度管理に乾湿差が使われるのか?

相対湿度ではダメなのだろうか?

仮説

・不快指数の計算が簡単だから。
・相対湿度は大気圧が関わってきてややこしいから。
・相対湿度計は当てにならないから。
・不便な時代から更新されていないだけ。

不快指数の説

不快指数は相対湿度からよりも乾湿差からの方が計算しやすい。
麹菌にも快適な湿度があって、麹菌にとっての不快指数を算出することを目的として乾湿差を採用しているのでは…?
と思ったけどいくら調べても乾湿差4〜5に保つ程度のことしか書かれておらずそれ以上の言及は見つからなかった。
実際の麹造りでは湿度表を照らし合わせて乾湿差から相対湿度に置き換えることさえしていない場合も多い印象がある。

相対湿度は大気圧が関わってきてややこしい説

乾湿差の湿度表は、標準の大気圧を1013hPaとして全国一律・天気一律で表されているんだろうと思う。
では台風が来て低気圧になったり、標高の高い山奥にある蔵では誤差が出てくるのでは…?
と思って計算してみた。
飽和水蒸気圧の近似値を求めるアルゴリズムは、Tetensの式、Wagnerの式、Sonntagの式、といろいろあるらしいのでとりあえずその3種類を実装した。

https://gist.github.com/yoshida-eth0/f1f0f11a4817ffff3f1822bf28e1558e

乾温度30度、湿温度25度の乾湿差5度を想定して相対湿度を計算すると、
地上0m(1013hPa)の場合、66.757%rh。
猛烈な台風(900hPa)の場合 67.638%rh。
富士山の山頂(630hPa)の場合、69.740%rh。

この大気圧による差を乾湿差に直すと、
地上0mと猛烈な台風の差、相対湿度0.880%rh、乾湿差0.135度くらい。
地上0mと富士山の山頂の差、相対湿度2.984%rh、乾湿差0.459度くらい。
(逆にするのは計算が面倒なのでこの条件では乾湿差1度=相対湿度6.5%rhということにする)

結論。
富士山の山頂に麹室を建てて麹造りをしたとしても、アナログ温度計を目視で0.5度刻みに丸めた時よりも誤差が少ない。
常識的なシチュエーションで言えば、人が住む一般的な標高で、通常日本でよく起こる台風程度での低気圧なら特に気にする必要はなさそう。

そもそも醸造方法が確立された時代、日本では大気圧の単位はヘクトパスカルではなくミリバールが使われていた。
清酒製造技術の初版発行は1979年(昭和54年)。
日本でヘクトパスカルが使われるようになったのは1992年(平成4年)。
なので関係ない気がする。

相対湿度計の精度に問題がある説

相対湿度計の精度については以下の通りらしい。

・温湿度計に衝撃が加わると精度が狂ってしまうので公称精度は保証できない
・センサーは劣化するため、数年建つと精度が悪くなる
・センサーの劣化により精度が狂った場合、元には戻らない(修正も修理もできない)

teinenpilife.com

手元にあるInkbird IBS-TH1 PLUSの湿度精度のスペックは以下の通り。
25℃/ 77°F、20%〜80%RH:標準:±3%RH、最大:±4.5%RH
25℃/ 77°F、0%〜100%RH:標準:±4.5%RH、最大:±7.5%RH

麹室の場合、温度30度前後、乾湿差4〜5度前後(相対湿度66〜73%rh前後)。
なのでどの程度の誤差が生じるか判断つかないけど、
4.5%rhずれる場合、乾湿差に直すと0.692度くらい。
7.5%rhずれる場合、乾湿差に直すと1.154度くらい。
心もとない感じはある。

不便な時代から更新されていない説

やはり信頼出来るのは乾湿差。
かといって製麹中の温度・湿度はリアルタイムでトラッキングできないのは不便。
それにアナログ温度計を目視して例え0.5度単位で丸めたとしても精度が高いとは言えない。
とはいえ多くの保守的な蔵では、精度の問題よりも感覚的に去年と同じ造りが出来るかどうかの方が重要なんだろうなと思う。

まとめ

大気圧の差は、猛烈な台風が来ても乾湿差0.135度くらいの差。
相対湿度計は精度が怪しい、麹造りの条件下では最大で乾湿差換算で1.154度くらいズレる。
アナログ温度計で乾湿差を目視で計算しても、1度単位・0.5度単位程度で丸めてしまえば精度が高いとは言えない。

結論。
相対湿度を計るにはセンサーの精度と寿命に問題があるから、というのが有力なのではなかろうか。

高精度な相対湿度をIoT化するには

前述の通り、相対湿度を計測するのは心もとない。
ならばIoT化出来る温度計を2つ使って乾と湿の温度を計って、2つのデータから乾湿差を出して相対湿度に変換するのが良いのではなかろうか。
そうすれば高頻度で高精度な相対湿度を得られてIoT化も出来る。
外部センサーをつけてセンサー部分のみを麹室に入れて温度計本体は外に置くなど出来れば、温度計の寿命も伸びて良いかもしれない。