醤油造りの仕込み配合の重量換算と塩分濃度の計算

今回は醤油造りにおける麹の仕込み配合の体積から重量への換算、原料と麹の水分量の計算、汲水の配合と塩分濃度の計算について。
前回の水分量計算の訂正も含めて。

前回の記事はこちら。
醤油用の麹造り - よしだ’s diary

原料の単位

原料は重さ(kg)ではなく体積(リットル)で量る。
「大豆:小麦=50:50」と言えば、大豆と小麦を同じ体積使うという意味。
「11水」と言えば、大豆の体積+小麦の体積の11割の塩水を使うという意味。

体積と重さの換算は以下の通り。
・大豆 1kl = 720kg
・脱脂加工大豆 1kl = 600kg
・小麦 1kl = 750kg

第6表 こいくちしょうゆの仕込配合割合の一例

現在
元1石 仕込割合 元1kl 仕込割合
大豆 35貫 1石 720kg
脱脂加工大豆 29貫 600kg 333kg(元0.55kl)
小麦 36貫 1石 750kg 333kg(元0.45kl)
食塩 32貫 1石
食塩水 23% 食塩水 1.2kl
1石 (12水)
元2石仕込 元1kl仕込

しょうゆの適正製造基準の作成とその要点(2)

大豆:小麦=50:50で仕込みたい場合、大豆1kgに対して小麦1.042kg、小麦1kgに対して大豆0.96kgとなる。
大豆1kgと小麦1kgで仕込んだ場合、割合は大豆:小麦=51.02:48.98となる。

脱脂加工大豆1kgと小麦1kgで仕込んだ場合、割合は脱脂加工大豆:小麦=55.556:44.444となる。

原料と麹の水分量

前回示した製麹経過での水分量。
これは原料を0とした歩合ではなく、水分の含有量。

盛り込み時:40.7%
2番手入れ:34.4%
出麹:27.6%
醤油の丸大豆仕込みについて P625 第3表

日本酒造りでは「出麹歩合」という言葉があるけど、醤油造りでは歩合ではなく水分量を量る。
日本酒の場合は麹歩合が20%程度なのに対し醤油の場合は100%なので、全体量から重量を量るよりも一部をサンプルして水分量を量る方が合理的ということなのかなと思う。(不明)

一般家庭では水分の含有量を測るのは難しいので、原料の水分量から計算する。
公式はこちら。

水分を除いた原料重量 = 原料重量 * (1 - 原料水分量)
出麹時水分量 = (出麹時重量 - 水分を除いた原料重量) / 出麹時重量

原料の出荷時水分量は以下の通り。

大豆。

出荷水分の15%以下まで乾燥を行います。
大豆の収穫・乾燥調製作業/千葉県

小麦。

乾燥仕上がり水分はビール麦で12%以下、小麦で12.5%以下、六条大麦で13%に調製します。
ホームページをリニューアルいたしました。 | JA全農さいたま

こういう仮定で例を計算してみる。
・大豆1リットル、小麦1リットルで仕込む。
・原料の時点での水分量は大豆14%、小麦12%。
・大豆は蒸すと原料の240%の重量になる。
・大豆は放冷すると原料の200%の重量になる。
・小麦は炒ると原料の95%の重量になる。

大豆 (水分量) 小麦 (水分量) 大豆+小麦 (水分量)
原料体積 1000ml (14.00%) 1000ml (12.00%) -
原料重量 720g (14.00%) 750g (12.00%) -
水分を除いた原料重量 619.2g (0.00%) 660.0g (0.00%) -
蒸豆 1728.0g (64.17%) - -
放冷蒸豆 1440.0g (57.00%) - -
炒り小麦 - 712.5g (7.37%) -
盛り込み時 - - 2152.5g (40.57%)

盛り込み時の水分量目標値40.7%にだいぶ近い数値となる。

汲水の塩分濃度

醤油の種類によって出来上がった醤油の塩分濃度は変わるはずだけど、醤油の種類による塩分濃度や塩水の配合などは見つからなかった。
理屈はわからないけど食塩水の濃度は以下のように定めているらしい。
塩も体積で量るのではないかと思うけど、具体的な数値は探した限り重量換算のものしか見つからなかった。

元1kl当り12水の場合総食塩として268kgを使用し,食塩水の濃度は22.30と定めてある。
しょう油もろみの製造方法 1.原料の配合割合と汲水

プログラム

Gistにアップした。
example1がこの記事で例に上げた計算。
醤油造りにおける麹の仕込み配合から重量への換算、汲水の配合と塩分濃度の計算 · GitHub

醤油用の麹造り

丸大豆醤油を仕込むことにしたので醤油用の麹造りについて調べた。
日本酒造りの知識をベースに解釈していく。

調べ方が悪いのか、J-Stageで論文を探しても日本酒よりも情報が少ない気がする。
その中でも多くが脱脂加工大豆を用いた醤油造りについてで、丸大豆を用いた醤油造りに関しては特に少なめな印象。

原料と原料処理

日本酒用の米麹の場合

原料は、米、アミラーゼ力価の高い黄麹の種麹。

米を浸漬させ27%程度吸水させ、米を蒸す。
種麹を蒸米に振る。
その後、温度管理を行う。

醤油用の大豆麹の場合

原料は、大豆、小麦、プロテアーゼ力価の高い黄麹の種麹。

大豆を一晩浸漬させて115%程度吸水させ、大豆を蒸す。
小麦を炒って砕き、種麹を混ぜる。
蒸した大豆に、炒って砕いた小麦と種麹を混ぜる。
その後、温度管理を行う。

浸漬歩合について。

一般に丸大豆の浸漬は原大豆の約2.2から2.3倍に膨潤するまで行うのが良いとされており,浸漬に要する時間は10℃で16時間,15℃で13時間,20℃で10時間,25℃で8時間程度が適当である(第1図)。
この条件では米国産丸大豆の吸水率は115%まで達し,また蒸煮圧2.0kg/cm2まで充分蒸煮が可能である。
醤油の丸大豆仕込みについて P624

大豆の浸漬時間を生み出す方程式。
それは、『30-水温=浸漬時間』。
30というのは基準値として前提にあり、そこから大豆を浸漬する水の温度を引くと浸漬すべき時間が算出できる、という魔法のような計算式です。例えば、水温が18度だとすると、大豆の浸漬時間は12時間でよいことになります。
大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(前編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」

小麦を炒る目的について。

小麦処理の主な目的は,原料の熱殺菌もさることながら,多量に含まれる小麦でんぷん質のα化によって,麹菌のアミラーゼの作用を受け易くすること,および粉合せ工程での蒸煮大豆に付着性をよくすることにより表面水分を調節して麹の雑菌汚染を抑制し,製麹操作を安全に容易にする事などがあげられている。
しょうゆの基本技術 (その1)原料処理から製麹まで P44

原料割合と醤油の種類

大豆と小麦の原料割合によって醤油の種類が変わる。

以下のように分類される。

大豆:小麦 種類
100:0 〜 70:30 たまり醤油
60:40 〜 40:60 濃口醤油、薄口醤油、再仕込み醤油
30:70 〜 10:90 白醤油

仕込みの熟成期間に関しては、小麦の割合が少ない程長くなる。
白醤油が0.5〜1年、たまり醤油が2〜3年。

しょうゆ醸造における原料配合と小麦の問題点 P18
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/76/1/76_1_18/_pdf

醤油の種類 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!
https://www.s-shoyu.com/knowledge/0301

原料の役割

大豆は麹菌によってタンパク質がアミノ酸へと分解され旨味となる。
小麦は麹菌によってデンプンがブドウ糖へと分解され甘みや香りとなる。

小麦を砕く理由は2つ。
細かい粒子で大豆同士の付着を防ぐ。
粗い粒子で大豆同士の間に隙間を作り、通気性をよくして麹菌の育成を助長、品温調節をやりやすくする。

大豆のたんぱく質がうま味成分のアミノ酸に分解され、小麦のでんぷんが甘味や香りのもとになるブドウ糖に分解されます。
醤油の原材料 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!

麹菌が出す酵素が働きやすくなるように、栄養源となる役割も小麦にはあります。味噌にも米や大麦が入っている米みそ・麦みそがありますが、これも大豆だけだとなかなか分解が進まないため、酵素の働きをよくするために入れられている面もあるのです。
実際普通の醤油の熟成期間が半年程なのに対し、小麦を使わないもしくは使っても少量だけのたまり醤油は、熟成期間が非常に長く2年から3年かけて出来上がります。米や大麦を使わない豆味噌(八丁味噌)の場合も同様です。
またブドウ糖は、乳酸菌と酵母によってアルコールや乳酸になり、しょうゆの味と香り成分に繋がっていくのです。なので、もし小麦が入っていなかったら、普段使っているような醤油の甘みや香りといったものは出来てこないことになります。小麦はやはり必要な原料なんですね。
醤油の原材料表示の謎を紐解く ~その1:なぜ小麦が必要なのか?~ | 旅する食卓 - table trip

割砕は4~5つ割の粒子(特に皮目の部分)と細かい粉状の粒子とがそれぞれ必要量共存する様に,二極化した作業が要求される。
割砕された細かい粒子は粉合せ作業の際,蒸煮大豆に付着して表面を被覆して表面水分を低下させ,ねばつかせずさらさらにして細菌の汚染や蒸煮大豆粒子相互の粘着を防止し,麹菌生育の表面積の確保に貢献している。
一方では粗い粒子は蒸煮大豆間に分散介在し空隙を作り,その結果通気性がよくなって麹菌の生育が助長され盛込原料の平均化がはかれ,品温調節もやりやすくなる。
しょうゆの基本技術 (その1)原料処理から製麹まで P46

目標水分量

盛り込み時:40.7%
2番手入れ:34.4%
出麹:27.6%
醤油の丸大豆仕込みについて P625 第3表

これは浸漬して蒸して倍以上に増えた大豆と炒って水分の抜けた小麦を合わせたものを計算しているのではないかと思う。

例えば大豆1kgと小麦1kg(原料割合50:50)で濃口醤油を作るとして、蒸し大豆2kg、炒り小麦0.8kgになった場合、
(2 + 0.8) / (1 + 1) = 1.4
と水分量40%となるため、だいたいそれっぽい数字になる。

(※追記:間違っていたので訂正→ 醤油造りの仕込み配合の重量換算と塩分濃度の計算 - よしだ’s diary)

ということは小麦の割合の低いたまり醤油を作る場合、浸漬時間を短くしたり放冷をきっちりやるなどして水分量を目標値に合わせに行く必要があるのだろうか…?(不明)

たまりしょう油醸造の現状
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/71/10/71_10_750/_pdf

手入れの用語と温度管理

お米と大豆では保つ温度帯も違えば手入れの呼び方も違う。

米麹の場合

引き込み、床揉み、種切り、切返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事、最高積替、出麹。
32度くらいで引き込みをして、40度を超えたあたりで出麹、と徐々に温度を上げて出麹を迎える。
アミラーゼ力価を強くするために、プロテアーゼ力価が強くなる32~35度の温度帯を早く通過させ高温を保つ。

豆麹の場合

盛り込み、1番手入れ、2番手入れ、出麹。
28〜30度くらいで盛り込みをして、28〜30度くらいで出麹、と温度を低めに保って出麹を迎える。
大豆は雑菌に弱いので品温を30度以下に保つ必要がある。
30度前半の温度帯であればプロテアーゼ力価が強くなるので旨味の強い麹になる。

手入れの呼び方が米麹のように事細かではないのは、米麹のように温度帯の振れ幅が少ないからだろうか。

以下は具体的な経過の例。

しょうゆの基本技術
(その1)原料処理から製麹まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/1/93_1_42/_pdf/-char/ja

たくさんある「麹の造り方」を理解するための話と、色々な「麹の造り方」|村井裕一郎|note
https://note.com/ymurai_koji/n/nda5f61f93653

天然醸造と速醸

ここからは製麹ではなく諸味の話。

日本酒で速醸と言えば、酒母に乳酸を添加することを指す。

醤油で速醸と言えば、乳酸菌や酵母を添加して温度を操作する醸造手法を指す。
天然の微生物が住み着かないステンレスのタンクなどで作られる。
醸造期間は半年程度。

天然醸造とは、乳酸菌も酵母無添加、温度管理も自然に任せる醸造手法。
天然の微生物が住み着く木桶などで作られる。
醸造期間は1〜2年程度。
日本酒で言うと酵母無添加生酛造りと言ったところだろうか。

酵素添加による速醸法というのもあるらしい。
醸造期間は2週間程度。
日本酒で言うと酵素剤を使った普通酒のような作り方だろうか。

酵素添加による速醸法
仕込工程初期に酵素剤を添加することで醸造期間を短縮する技術がある[50]。しかし、この場合は醤油業中央公正取引協議会の業界基準により、製品表示に「天然」「生」等の用語を利用することができない。
醤油 - Wikipedia

「笛木醤油」は、木の桶で2年間発酵・熟成…代々受け継がれた醸造方法とは | 無料のアプリでラジオを聴こう! | radiko news(ラジコニュース)
https://news.radiko.jp/article/station/FMJ/34076/

参考文献

論文とか

しょうゆの基本技術
(その1)原料処理から製麹まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/1/93_1_42/_pdf/-char/ja

しょうゆの基本技術
(その2)仕込みから製成まで
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/93/2/93_2_120/_pdf/-char/ja

醤油の丸大豆仕込みについて
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/82/9/82_9_623/_pdf/-char/ja

しょうゆ醸造における原料配合と小麦の問題点
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/76/1/76_1_18/_pdf

たくさんある「麹の造り方」を理解するための話と、色々な「麹の造り方」|村井裕一郎|note
https://note.com/ymurai_koji/n/nda5f61f93653

基礎の基礎 | 職人醤油 - 醤油を使い分けると、食はもっと楽しくなる!
https://www.s-shoyu.com/foundation/know01

大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(前編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」
https://haccola.jp/2018_07_05_7487/

大徳醤油さんに教わる醤油づくりA to Z 醤油じかん上級編(後編) - haccola 発酵ライフを楽しむ「ハッコラ」
https://haccola.jp/2018_07_21_7638/

醤油蔵の動画

How Soy Sauce Has Been Made in Japan for Over 220 Years — Handmade
https://www.youtube.com/watch?v=P6bk_AGu5mw

醤油の作り方 弓削多醤油「醤遊王国」の紹介 How it’s made soy sauce: Introduction of Yugeta Shoyu
https://www.youtube.com/watch?v=bW7zGb6gI8o

【2020年】八木澤商店の大原工場【しょうゆができるまで】
https://www.youtube.com/watch?v=jyWqGsXW4Rw

弓削多醤油(埼玉県坂戸市)の醤油蔵見学
https://www.youtube.com/watch?v=mAnLSE8ebXc

家庭向け醤油の作り方

豆麹の作り方|はじめてでも分かりやすい動画つき -Well Being -かわしま屋のWebメディア-
https://kawashima-ya.jp/contents/?p=671

醤油作り
http://www.ajiwai.com/otoko/make/syou.htm

2018年、醤油作りの第一弾!長白菌で醤油を作ってみた。 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce2/

2018年醤油仕込み第二弾!強力粉の量を減らしてみた - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sause-2018/

醤油の材料【大豆・小麦・麹菌】について知ると手作りの楽しみ倍増 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce-material/

家庭で作る!自家製醤油の作り方【小麦粉を使って・発酵器はなし】 - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sause-matome/

大豆300gフードコンテナとオーブンで醤油作り - 自家製ラボ
https://hokkori-meshi.com/soy-sauce-small/

豆麹作りに挑戦! - オトコ中村の楽しい毎日
https://otokonakamura.com/mamekoji/

摂取カロリーと消費カロリーを計算して体重増減の予測をする

総消費カロリーよりも摂取カロリーが多ければ体重は増える。
摂取カロリーよりも総消費カロリーが多ければ体重は減る。

ではカロリーってやつはどの程度信頼できるものなのだろうか。
摂取カロリーと消費カロリーを1ヶ月間記録してカロリーからの体重増減の予測と実際の体重推移の誤差を体を張って調べてみた。

計算方法

カロリーの計算式については別の記事にまとめた。
これが前編、この記事が後編みたいな感じ。
摂取カロリーと消費カロリーを計算方法 - よしだ’s diary

今回書いたプログラムは以下。
摂取カロリーと消費カロリーを計算 · GitHub

体重増減を予測する

摂取カロリーと総消費カロリーの実績平均値から未来の体重増減を予測する。

1日だけを見ても、消化能力や消化スピード、食事やトイレのタイミング、炭水化物摂取量による一時的な増減など、成果が数日後に現れるかもしれないし誤差もあるかもしれない。
なので数日間の実績から平均値を算出し未来の体重増減を予測する。

実績値をグラフ化したところで、思ったよりも減った日が2日くらい続いたら「最近調子良いから早ければ明日にはxxを達成しそうだゾ!」とかいらん期待をしてがっかりしたり、逆もまた然り。
だから実績値にどの程度の誤差があるかも算出する。

予測は自分の今までの摂取カロリーと総消費カロリーの実績からの算出なので、間違いなく実現可能な生活。
今までの実績の平均的な生活を続けていけばペースを守って痩せていく。
キツイ目標を掲げている訳ではないので無理がない。

計算方法
今回は初日(2021-05-25)の体組成をベースに、日々の摂取カロリーと総消費カロリーの差分を体重に換算して足していく。
体組成は朝と晩で差が大きいので、朝と晩の平均値を1日の値とした。
筋肉量(基礎代謝量)が変化することは考慮せず、単純に体脂肪のみが増減すると仮定する。
基礎代謝量が変わったらこの計算は狂っていくので、ファクターを減らすために筋肉量の維持を心がける。

2021-05-25から2021-05-31までの期間は摂取カロリーを記録していなかったので、毎日1,200kcal摂取していたということにした。
ジムに通いだしたのが2021-06-08なので、予測には2021-06-08以降のデータを使った。
ウォーキングでの消費カロリーは、Google Fitでのウォーキング時間に2.5METsをかけた値とした。
無酸素運動有酸素運動での消費カロリーは、行った運動の時間にそれに準じたMETsをかけた値とした。
運動種別と筋肉量の増減の傾向を見るために無酸素運動有酸素運動で分けた。

1ヶ月間の実績値と予測値

1ヶ月間の経過
1ヶ月間での増減の実績値。
・体重:4.25kg減
体脂肪率:4.2%減

1ヶ月間での増減の予測値。
・体重:3.85kg減
体脂肪率:4.1%減

実績値と予測値の誤差の偏差。
・体重:0.3kg
体脂肪率:0.24%

以上の結果から、基礎代謝量さえわかればカロリー計算だけで体重増減を予測できると言える。
誤差の偏差は朝晩の差より全然小さいので、なかなか精度高いと思う。

f:id:eth0jp:20210626003208j:plain:h400f:id:eth0jp:20210626003214j:plain:h400
体重と体脂肪率の推移 (タニタ HealthPlanet)

未来の予測
この生活を続けて筋肉量を維持し続けた場合の予測。
・2021-07-01 体脂肪率19%を下回る。
・2021-07-03 体重70kgを下回る。
・2021-07-06 体脂肪率18%を下回る。
・2021-07-11 体脂肪率17%を下回る。
・2021-07-17 体脂肪率16%を下回る。
・2021-07-22 体脂肪率15%を下回る。

ただし予測からズレる要因は多々ある。
・筋肉量を維持するために摂取カロリーを増やす。
・意図せず筋肉量が落ちて基礎代謝量が落ちる。
・ある程度体脂肪が落ちたら意図的に筋肉量も落として細身にする。
・適当なところで飽きる。
などなど。

f:id:eth0jp:20210626003400p:plain:h400
実績と予測

実際の減量生活

食生活
ビタミンとかミネラルとかはサプリでどうとでもなるので考えるのをやめた。
PFCバランスと飽和脂肪酸と塩分はサプリではどうにもならんのでそっちだけに注力することにした。

酒を飲まなくなった。
酒飲みなので基本的に米を食べない生活をしていたので、自ずと糖質制限ダイエットとなった。
酒を飲まなければ日本酒そのものの糖質もなくなるし、〆に炭水化物を欲することもない。

野菜多め。
精進料理のようなおばんざいで酒が飲めるタイプなので、精進料理のようなおばんざいをおかずに生野菜を食べることが別に苦にならない。
ドレッシングは脂質が多いので使わない。
なので炭水化物は低いし脂質も多くはない。

タンパク質は基準値に当てはまるように摂取するように心がけた。
3食自炊するとPFC全てが基準値よりも低くなってしまうので、タンパク質摂取量が低い時はプロテインを飲んで調整した。
プロテインは粉ではなく200mlのパックのものを飲んだ。
粉は試したことないけど、粉よりもストレートの方が美味しいということはアクエリアスで学んだ。

酢酸が内臓脂肪に効くらしいので、黒酢ドリンクを飲むようにした。
希釈タイプの方が割安だったけどストレートのものを飲んだ。
希釈タイプは試したことないけど、希釈タイプよりもストレートの方が美味しいということはカルピスで学んだ。

美味しいものを食べる。
料理はそこそこ出来るので、美味しく高タンパク低脂質でお腹を満たす術はあった。
ただ油をカットすると手がかかるしフライパンも痛むので、そこはトレードオフ感が強い。

タンパク質をちゃんと摂って炭水化物を摂らない食生活はライザップに通ずるものがあるのかもしれない。

f:id:eth0jp:20210626001725j:plain:h400
直近7日間の平均摂取カロリーと栄養素 (あすけん)

運動
最初は食事改善と軽い運動で試みていたものの、その生活にも飽きてしまったので途中からジムに通いだした。
無酸素運動は主に筋トレ。
有酸素運動はきつめのやつだとダンス系、軽めのやつだとストレッチ系。

筋肉量は日によって増減はあるものの、1ヶ月を通して筋肉量を54kg前後に維持できたと言っていいように思う。

f:id:eth0jp:20210626002057j:plain:h400
筋肉量推移 (タニタ HealthPlanet)

体組成のクセ
夜に比べて朝の方が、体重と筋肉量が減っている。
寝ている間に体から水分が抜けるので減るらしい。
筋トレで疲れ果てて昼寝してから図ったら筋肉量が減っているというケースも。
あまり寝られなかった日の朝は前日の夜と大差ない数値になることも。
風呂に入ると体脂肪率が減る。

やろうと思ったけどやらなかったこと

マルチビタミンとかの複合的なサプリメントを何をどの程度飲めばちょうどいいかを線型計画法で求めようかと思ったけど、手元にあるサプリであまり栄養素が被ってるものがなかったので保留。
行ったり着たりする誤差の周期を離散フーリエ変換とかなんやかんやしたら何か見えてくるかなと思ったけど、まだ周期が見えるほど継続していないので保留。

奇しくも

HUAWEI Band6を買ったにも関わらず、自分で計算した方が正確な消費カロリーを算出できるようになってしまった。
先月まで日本酒の分析や研究をしていたけどやれることはやったかなと思ったらもう飲まなくていいやという思いになり、それを期に突如減量が始まったので抜栓済みの日本酒がタンスの肥やしになってしまった。

摂取カロリーと消費カロリーを計算方法

推定する計算式など、いろいろあってよくわからなかったのでまとめた。

摂取カロリー

タンパク質 = 1gあたり4kcal
脂質 = 1gあたり9kcal
炭水化物 = 1gあたり4kcal

計算方法
あすけんにその日食べたものを全部登録する。
基本的にカロリー不明なものは食べない。
自炊するなら原料を登録。
惣菜買うならPFCバランスや栄養素の書かれたものを買う。
外食するならメニューごとにPFCバランスや栄養素が公表されているチェーン店に行く。
そうすれば摂取カロリーの計算は出来る。

炭水化物抜きダイエットについて
炭水化物を抜いて体重が減ったとしても水分が抜けて一時的に減っているだけ、とはよく言われている。
しかしそれは同じカロリー摂る場合であって、例えばお米を生野菜に置き換えた場合には摂取カロリーは減るのでその分は水分以外の部分が減るのではないかと思う。
ただやはり健康的な方法ではないらしい。

基礎代謝

体組成を測るにあたってタニタの体組成計を買った。
身長、体重、体脂肪率、筋肉量、推定骨量、の5項目から計算していく。
身長、体重、性別、年齢、の4項目から推定することもできるけどあまりあてにはならなそう。

除脂肪体重がわかる場合の計算方法
除脂肪体重がわかっている場合は、キャッチ・マカードルの式を用いる。

370 + 21.6 * 除脂肪体重

ちなみに除脂肪体重の算出は以下。

体重 - (体重 * 体脂肪率 / 100)

除脂肪体重がわからない場合の計算方法
体脂肪率も除脂肪体重もわからない場合は、ハリス・ベネディクト方程式(改良版)を用いて基礎代謝量を推定する。

男性: 13.397×体重kg+4.799×身長cm−5.677×年齢+88.362
女性: 9.247×体重kg+3.098×身長cm−4.33×年齢+447.593

基礎代謝量 - 高精度計算サイト
https://keisan.casio.jp/exec/system/1161228736

身体活動

身体活動量の計算方法

 身体活動の強さと量を表す単位として、身体活動の強さについては「メッツ」を用い、身体活動の量については「メッツ・時」を「エクササイズ」と呼ぶこととしました。

(1) 「メッツ」(強さの単位)
 身体活動の強さを、安静時の何倍に相当するかで表す単位で、座って安静にしている状態が1メッツ、普通歩行が3メッツに相当します。
(2) 「エクササイズ(Ex)」(=メッツ・時)(量の単位)
 身体活動の量を表す単位で、身体活動の強度(メッツ)に身体活動の実施時間(時)をかけたものです。より強い身体活動ほど短い時間で1エクササイズとなります。

厚生労働省:標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会第3回資料
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/11/s1109-5g.html

身体活動の強さ
国立健康・栄養研究所が公開している「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」を参考にする。

改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf

総消費カロリー (TDEE・Total Daily Energy Expenditure)

運動している時間はその運動に応じたMETs、運動していない時間は1METsとして24時間の身体活動量と総消費カロリーを算出する。

計算方法

1時間あたりの基礎代謝量 = 基礎代謝量 / 24
エクササイズ = METs * 運動時間
身体活動での消費カロリー = エクササイズ * 1時間あたりの基礎代謝
安静時の消費カロリー = (24 - 運動時間) * 1時間あたりの基礎代謝
総消費カロリー = 身体活動での消費カロリー + 安静時の消費カロリー

カロリーと体重の換算

脂肪1kgを消費するのに必要なエネルギー(カロリー)は、9kcal×1000g×80%=約7200kcal 程になります。

カロリーとは|健康のつくりかた|タニタ
https://www.tanita.co.jp/health/detail/28

日本酒醸造データのマーケティングへの活用

飲みたい酒に出会えなくてとても困っている。

原因。
・ラベル見ても味が想像できない。
・酒の味を的確に説明できる酒屋・飲食店がない。

杜氏が狙い通り最高の酒が出来たと自負したとしても金賞を取っていたとしても、消費者の好みに合わなきゃ飲みたくないし買いたくない。
好みじゃない酒は4合瓶ですら飲み干すのが苦痛。
料理酒にするのも忍びないし困ってしまう。

そこで分析・統計学を使ったマーケティングの話。

前回は造ることに対するアプローチをした。
統計学用語を使うなら「ベイジアンネットワークで醸造データとABテストの結果から最良な醸造方法の確立」とでも言えばいいだろうか。
以下参照。

日本酒醸造管理データモデルを公開した思惑と展望
https://yoshida-eth0.hatenablog.com/entry/2021/04/18/204507

今回はマーケティングに対するアプローチを2つしたい。

因子分析で蔵元の思想を探る

酒屋のECサイトではよくわからない主観的なポエムで酒や蔵を表していることが多い。(偏見)
飲み屋の店主は「蔵元の想い」「丁寧な作り」というよくわからないワードを使うことが多い。(経験則)
しかしそれが何を根拠としているのか、どういう酒質を表しているのかよくわからない。

では「蔵元の想い」とは一体何なのか?
酒質から感じ取れる蔵元の想いがあるとするならば、それはコンセプトだと思う。
蔵元が商品のコンセプトを立て、杜氏がそれに見合う仕込み配合や手法を設計し、蔵人が杜氏の設計に沿って造り、化学分析の結果によって杜氏が軌道修正方法を考え、蔵人が杜氏の軌道修正方法に沿って軌道修正する。
(便宜上蔵元と杜氏を分けたが同一人物であることも多いので、技術的要因が先行して商品コンセプトを後付けするケースもあるかもしれない)

酒質を司る技術的要因は設計と軌道修正方法にある。
なので設計と軌道修正方法を因子分析して共通因子を探せば、蔵をまたいで似た造りかどうかを分析する事ができる。
つまり別々の蔵の別々の酒を「蔵元の想いが似ているかどうか」という評価基準で比較することが出来るようになる。

もしかしたらこれは地域ごとのナントカ杜氏みたいな杜氏集団によって大きく分類されるかもしれないし、まったく違う分類があるかもしれない。
蔵元の人柄に惚れた、という人情にアツい人であればこういう指標で見知らぬ蔵に愛着が湧くというケースもあるのではなかろうか。
これは十分にマーケティングに活用できる指標になると思う。

主成分分析で酒質をクラスタリングする

ラベルの裏側を見ればだいたいの酒質は想像できると思っていた時期が私にもありました…。
米、精米歩合、アルコール度数、日本酒度、酸度、くらいがわかれば概ねの傾向はわかると言えばわかる。
しかし実際に想像通りの味かと言ったらそうでもないものも多い。

例えば、酸度ひとつ取ってもわからないことは多い。
裏ラベルに酸度が書かれていたとしても、何由来の酸なのかは皆目検討もつかない。
数値的には高いなと感じたとしても、生酛造りだから酸が高いのかもしれないし、雑な管理をされていて酸が高いのかもしれないし、あるいは白麹を使っていて酸が高いのかもしれない。
例を挙げた3つをとってもどれも違う酸でありまるで味わいの違う酸であることは言うまでもない。
(実際には、生酛だったら概ね生酛って書いてあるし、白麹使ってたら概ね白麹使ってるって書いてあるだろうけど)

一般消費者に示されているものは、アルコール度数、日本酒度、酸度、「生酛」「辛口」「淡麗」「芳醇」「純米」「大吟醸」などのラベルだけ。
それ以外にもいくつか書かれていたとしても、それだけでは消費者は(日本酒の知識を持っていたとしても)判断し得ない。

特に「辛口」に至っては概ね日本酒度が高いことを指すはずが「辛口と書いた方が売れる」という理由で辛口でなくても辛口と表記するとも聞く。
それでなくても巷では辛口論争が絶えないというのに…。

酒質は設計と経過と蔵の特性によって決まる。
なので設計と経過と化学分析結果を主成分分析すれば、酒質を甘辛濃淡では表しきれない新しい複数の指標でクラスタリングすることが出来る。

飲みたい酒質が明確にある消費者にとっては趣向に合う酒を探しやすくなる。
日本酒初心者にとっては自分の趣向を探す手助けになる。
海外展開などをする時にも興味を持ってもらいやすい指標になると思う。

まとめ

醸造技術向上に役立つ統計学
ベイジアンネットワークで醸造データとABテストの結果から最良な醸造方法の確立

マーケティングに役立つ統計学
・因子分析で蔵元の思想をクラスタリングしてラベルの内容では表しきれない新しい指標をマーケティングに活用
・主成分分析で酒質をクラスタリングして甘辛濃淡では表しきれない新しい指標をマーケティングに活用

コロナ渦で飲食店も酒類提供を止められ、宅飲み需要に対応しなければいけない蔵や酒屋。
もう大人数で集まってノリで酒を飲む時代は終わったんだから、消費者が失敗しない日本酒選びを出来るようにどうにかしてほしい。

日本酒醸造管理データモデルを公開した思惑と展望

昨年Rubygemsで日本酒醸造管理データモデル「Toji」を公開した。
その意図と目的がミスリードされがちなので、思惑と展望についてつらつらと。

https://rubygems.org/gems/toji

デジタル化する目的とは

連絡を取ってくる蔵の人と吉田とでは、デジタル化の意義の解釈が根本的に違うんだろうなと感じる。
この解釈の差は大きい。

Tojiに興味を持つ蔵の人の思惑。
・温度やアルコール度数など入力するだけでグラフ化したい。
・経過簿から自動でBMD曲線やAB直線をグラフ化したい。
・楽をするためにIoT化したい。
・エクセルで管理したい。
→人間が楽をするため。

吉田の思惑。
・温度やアルコール度数などの1次データを分析出来るようにフォーマット整えたい。
・整形された1次データをグラフ化したい。(つまり経過簿)
・1次データのみを用いて計算できるものをグラフ化したい。(つまりBMD曲線やAB直線)
・解像度の高い1次データをリアルタイムに蓄積するためにIoT化したい。
・解像度の高い1次データを元に高次元分析をして統計を取ってABテストを繰り返して理想の酒質に近づけたい。(要は獺祭がやってるようなこと)
・膨大なデータを蓄積して分析するためにデータをクラウドで管理する必要がある。
→人間には出来ない計算をするため。

醸造管理データモデルの公開

吉田の思惑を言い換えれば、蔵の経過簿等の管理をデジタル移行するにあたっての課題でありマイルストーンでもある。

そのファーストステップとしてまずはフォーマットを整えましょう、と。
しかし全国の各蔵でよく使われている紙の経過簿フォーマットに相当するものがデジタルにはなかった。
そこでデータモデルを設計してオープンソースで公開したものがToji gems。
これを醸造管理データモデルのスタンダードとしませんか、という提案。

MIT Licenseで公開してるからライセンスのもと好きに使ってくれて構わない。
そのまま使うも良し、エクセルで管理したいならエクセルに移植するも良し。

とは言っても、田舎のおじいさんがこれを使うのは無理でしょう。
ではなぜ公開したのか。
それはこのデータモデルに準拠したシステムを世の中の複数のベンダーに作ってほしいから。

システムに依存せずデータモデルに準拠すべき

共通のデータモデルを使ったシステム同士であればデータをエクスポート/インポートして直ちに移行が完了することも容易になる。
データモデルを公開し標準化することで、このデータモデルに準拠したシステム同士ではデータの移行コストを大幅に減らすことができる。

蔵にとって、共通のデータモデルで複数のベンダーがシステムを作るメリット。
・蔵がどのシステムを使うかの選択肢が増える。
・システム移行のコストが減るので時代と目的に合わせて最適なシステムを選択し続けることが出来る。

「最適なシステムを選択すること」ではなく「最適なシステムを選択し続けること」なのがポイント。
当たり前のことだけど、今最新でモダンな設計のシステムを導入したとしても10年後には10年前の古いシステムになる。
だからその時代に見合ったものをどこかのベンダーが作ればいいなと思っている。
蔵の事業なんてこの先ウン百年も続くんだから、目先の導入のしやすさや手軽さではなく、そのシステムが古くなった時のことを想定した方が良い。
簡単にやめられないシステムを使うとなると、導入するにあたってそのシステムと一生添い遂げるような気概が必要になってしまう。
そうならないためにシステムやツールに依存するのではなくデータモデルに準拠すべき。

データモデルの発展と展望

醸造管理システムを新たに作りたいベンダーが現れた場合。
システム移行が容易なため参入障壁が下がり、より良いシステムが誕生しやすくなる。
蔵からすれば、移行コストを考えずに機能、操作性、価格などを比較しその時代時代でより自分に適したシステムを選ぶことができる。

醸造データを分析したいベンダーが現れた場合。
データモデルが決まっているので実データがなくてもインターフェイスを合わせて開発することが出来る。
世の中には、なんでそんな研究してんの?みたいな一見無意味でニッチな探究心を持った有能な変人が結構いる。
そういう人が斜め上から価値をもたらすことも往々にしてある。
そういう人を取りこぼさないためにも研究できるようにデータを整えておくことは価値がある。
(誰彼構わずデータを明け渡すという意味ではなく、いざ他人にデータを提供しようとした時に紙で渡されても困る、という話)

共通のデータモデルに準拠したシステムを使う蔵同士であれば、蔵をまたいだデータ分析ができるようになる。
ひとりの人間が生涯かけても統計学で有効なサンプル数を取ることは難しい。
例えば、70年勤続して年間20仕込みする蔵に従事していた場合1400、年間30仕込みで2100。
原料が限られているにも関わらず多くのファクタが存在する日本酒醸造においてこのサンプル数は統計学上あまりにも少ない。
あの獺祭であっても山田錦1本に絞って何年も四季醸造し続けて今がある。
蔵をまたぐデータ分析は統計学上有効なサンプル数が賄えない小さな蔵にとっては大きなメリットになる。

デファクトスタンダードへの障壁

しかしこのデータモデルがデファクトスタンダードになるためには大きな障壁がある。
それは、システムに対してビタ一文金を払う気がない蔵が多いという点。
蔵が金を払う気がない、ベンダーは儲からないからどこもシステムを作らない、市場として競合が生まれず技術的な進歩をしない。

一切金にならないのにこれだけの開発をしている吉田が特殊なだけ。
データモデルを無償公開しているからと言って、どうやって使うのかわからないからタダでサポートしてほしい、タダで蔵独自のシステムを作ってほしい、タダでデータ入力してほしい、みたいなズレた要望をされて嘆かわしい。
往々にして田舎の小さな蔵はいろんな人がボランティアで至れり尽くせりやってくれて、そのへんの感覚が世間離れしてるのかなとも思う。
将来的な展開を見据えている蔵は既に何かしらの管理ツールは導入しているだろうし、未だに紙で管理している蔵なんてそんな感じなのかもしれない。

日本酒蔵が舞台の映画で、酒質よりも効率化と利益を優先する血も涙もない東京モンが悪役の話があったけど「楽をしたいからタダでシステムを作って欲しい(要約)」と言ってくる蔵がある、これが現実。

もう少し数学に理解を示してほしい

実作業にあたる蔵人に求められる学力って小学5年生レベルなんじゃないかと思う。(煽り)
・体積の計算
・濃度の計算
・水温の計算
くらい出来れば事足りる。

杜氏(微生物学や化学の人)がどんな小難しいことを考えているのかこっち(数学の人)からはよく知らないけど、もう少し数学にも理解を示してほしいなと感じる。
現代の蔵元や杜氏と呼ばれる人ってだいたいどこかの大学の醸造学科を出てると思うけど、数学はやらないんだろうか。
線形代数とかって大学数学の基礎のはずで、そこらへんの勉強をしていれば統計学の意義がわかると思うのだけれど。

効率化や楽をすることを目的としていない

冒頭に書いたけど、人間には出来ない計算をすることを目的としている。
データモデルを定義してフォーマットを整えるのは、人間には出来ない計算をするための前提。
その前提を整えればBMD曲線やAB直線をグラフ化することも容易いというだけのこと。

デジタル化の真価はデータを分析することにある。
断じて1次データから電卓を使って求められる程度の計算をして2次元グラフ(BMD曲線やAB直線)を表示させることではない。
データの分析とは、グラフで表すことの出来ない高次元データを扱うということ。

正直、電卓で計算出来る程度のことしかしないなら、別に紙でもいいと思う。
BMD曲線やAB直線をグラフ化したいというだけなら、近所の高校生を安く雇ってエクセルで適当にやってもらえばいいんじゃないかと思う。

お問い合わせの仕方

Toji gemsについて問い合わせてくる蔵の人って、現状の蔵の管理方法よりも吉田の管理手法の方が優れていると感じたから連絡をしてきたはず。
言ってしまえば自分の蔵のデータさえもまともに管理出来ていない人。
そんな人がこっちのデータモデル設計に対して謎の上から目線でアドバイスをしてきたりするのでなんだかなぁと。

大体のアドバイスはデータモデルではなくシステムに関して「自分が必要としているから作って欲しい」という言い分。
であれば手法に対してとやかく言うのではなく、蔵の抱える問題点や経緯、目的などを共有してほしい。
・困りごとがあるのであれば、現状どういう管理をしていて何が問題になっているのか。
・蔵独自の管理手法をそのままデジタル移行したいというのであれば、その管理手法は何を目的としていてどのように優れているのか。

誰かひとりが必要としても汎用的に優れていない手法を採用する気はないし、金銭が発生しない以上やるやらないはこちらの一存。
タダで作らせたいのであればプレゼンテーションする立場だと理解してほしい。

敬意も金も払わんとなるとどうにもならん。
足元を見られる筋合いはないので何卒。

なぜ麹造りの湿度管理に乾湿差が使われるのか?

相対湿度ではダメなのだろうか?

仮説

・不快指数の計算が簡単だから。
・相対湿度は大気圧が関わってきてややこしいから。
・相対湿度計は当てにならないから。
・不便な時代から更新されていないだけ。

不快指数の説

不快指数は相対湿度からよりも乾湿差からの方が計算しやすい。
麹菌にも快適な湿度があって、麹菌にとっての不快指数を算出することを目的として乾湿差を採用しているのでは…?
と思ったけどいくら調べても乾湿差4〜5に保つ程度のことしか書かれておらずそれ以上の言及は見つからなかった。
実際の麹造りでは湿度表を照らし合わせて乾湿差から相対湿度に置き換えることさえしていない場合も多い印象がある。

相対湿度は大気圧が関わってきてややこしい説

乾湿差の湿度表は、標準の大気圧を1013hPaとして全国一律・天気一律で表されているんだろうと思う。
では台風が来て低気圧になったり、標高の高い山奥にある蔵では誤差が出てくるのでは…?
と思って計算してみた。
飽和水蒸気圧の近似値を求めるアルゴリズムは、Tetensの式、Wagnerの式、Sonntagの式、といろいろあるらしいのでとりあえずその3種類を実装した。

https://gist.github.com/yoshida-eth0/f1f0f11a4817ffff3f1822bf28e1558e

乾温度30度、湿温度25度の乾湿差5度を想定して相対湿度を計算すると、
地上0m(1013hPa)の場合、66.757%rh。
猛烈な台風(900hPa)の場合 67.638%rh。
富士山の山頂(630hPa)の場合、69.740%rh。

この大気圧による差を乾湿差に直すと、
地上0mと猛烈な台風の差、相対湿度0.880%rh、乾湿差0.135度くらい。
地上0mと富士山の山頂の差、相対湿度2.984%rh、乾湿差0.459度くらい。
(逆にするのは計算が面倒なのでこの条件では乾湿差1度=相対湿度6.5%rhということにする)

結論。
富士山の山頂に麹室を建てて麹造りをしたとしても、アナログ温度計を目視で0.5度刻みに丸めた時よりも誤差が少ない。
常識的なシチュエーションで言えば、人が住む一般的な標高で、通常日本でよく起こる台風程度での低気圧なら特に気にする必要はなさそう。

そもそも醸造方法が確立された時代、日本では大気圧の単位はヘクトパスカルではなくミリバールが使われていた。
清酒製造技術の初版発行は1979年(昭和54年)。
日本でヘクトパスカルが使われるようになったのは1992年(平成4年)。
なので関係ない気がする。

相対湿度計の精度に問題がある説

相対湿度計の精度については以下の通りらしい。

・温湿度計に衝撃が加わると精度が狂ってしまうので公称精度は保証できない
・センサーは劣化するため、数年建つと精度が悪くなる
・センサーの劣化により精度が狂った場合、元には戻らない(修正も修理もできない)

teinenpilife.com

手元にあるInkbird IBS-TH1 PLUSの湿度精度のスペックは以下の通り。
25℃/ 77°F、20%〜80%RH:標準:±3%RH、最大:±4.5%RH
25℃/ 77°F、0%〜100%RH:標準:±4.5%RH、最大:±7.5%RH

麹室の場合、温度30度前後、乾湿差4〜5度前後(相対湿度66〜73%rh前後)。
なのでどの程度の誤差が生じるか判断つかないけど、
4.5%rhずれる場合、乾湿差に直すと0.692度くらい。
7.5%rhずれる場合、乾湿差に直すと1.154度くらい。
心もとない感じはある。

不便な時代から更新されていない説

やはり信頼出来るのは乾湿差。
かといって製麹中の温度・湿度はリアルタイムでトラッキングできないのは不便。
それにアナログ温度計を目視して例え0.5度単位で丸めたとしても精度が高いとは言えない。
とはいえ多くの保守的な蔵では、精度の問題よりも感覚的に去年と同じ造りが出来るかどうかの方が重要なんだろうなと思う。

まとめ

大気圧の差は、猛烈な台風が来ても乾湿差0.135度くらいの差。
相対湿度計は精度が怪しい、麹造りの条件下では最大で乾湿差換算で1.154度くらいズレる。
アナログ温度計で乾湿差を目視で計算しても、1度単位・0.5度単位程度で丸めてしまえば精度が高いとは言えない。

結論。
相対湿度を計るにはセンサーの精度と寿命に問題があるから、というのが有力なのではなかろうか。

高精度な相対湿度をIoT化するには

前述の通り、相対湿度を計測するのは心もとない。
ならばIoT化出来る温度計を2つ使って乾と湿の温度を計って、2つのデータから乾湿差を出して相対湿度に変換するのが良いのではなかろうか。
そうすれば高頻度で高精度な相対湿度を得られてIoT化も出来る。
外部センサーをつけてセンサー部分のみを麹室に入れて温度計本体は外に置くなど出来れば、温度計の寿命も伸びて良いかもしれない。