飲みたい酒に出会えなくてとても困っている。
原因。
・ラベル見ても味が想像できない。
・酒の味を的確に説明できる酒屋・飲食店がない。
杜氏が狙い通り最高の酒が出来たと自負したとしても金賞を取っていたとしても、消費者の好みに合わなきゃ飲みたくないし買いたくない。
好みじゃない酒は4合瓶ですら飲み干すのが苦痛。
料理酒にするのも忍びないし困ってしまう。
前回は造ることに対するアプローチをした。
統計学用語を使うなら「ベイジアンネットワークで醸造データとABテストの結果から最良な醸造方法の確立」とでも言えばいいだろうか。
以下参照。
日本酒醸造管理データモデルを公開した思惑と展望
https://yoshida-eth0.hatenablog.com/entry/2021/04/18/204507
今回はマーケティングに対するアプローチを2つしたい。
因子分析で蔵元の思想を探る
酒屋のECサイトではよくわからない主観的なポエムで酒や蔵を表していることが多い。(偏見)
飲み屋の店主は「蔵元の想い」「丁寧な作り」というよくわからないワードを使うことが多い。(経験則)
しかしそれが何を根拠としているのか、どういう酒質を表しているのかよくわからない。
では「蔵元の想い」とは一体何なのか?
酒質から感じ取れる蔵元の想いがあるとするならば、それはコンセプトだと思う。
蔵元が商品のコンセプトを立て、杜氏がそれに見合う仕込み配合や手法を設計し、蔵人が杜氏の設計に沿って造り、化学分析の結果によって杜氏が軌道修正方法を考え、蔵人が杜氏の軌道修正方法に沿って軌道修正する。
(便宜上蔵元と杜氏を分けたが同一人物であることも多いので、技術的要因が先行して商品コンセプトを後付けするケースもあるかもしれない)
酒質を司る技術的要因は設計と軌道修正方法にある。
なので設計と軌道修正方法を因子分析して共通因子を探せば、蔵をまたいで似た造りかどうかを分析する事ができる。
つまり別々の蔵の別々の酒を「蔵元の想いが似ているかどうか」という評価基準で比較することが出来るようになる。
もしかしたらこれは地域ごとのナントカ杜氏みたいな杜氏集団によって大きく分類されるかもしれないし、まったく違う分類があるかもしれない。
蔵元の人柄に惚れた、という人情にアツい人であればこういう指標で見知らぬ蔵に愛着が湧くというケースもあるのではなかろうか。
これは十分にマーケティングに活用できる指標になると思う。
主成分分析で酒質をクラスタリングする
ラベルの裏側を見ればだいたいの酒質は想像できると思っていた時期が私にもありました…。
米、精米歩合、アルコール度数、日本酒度、酸度、くらいがわかれば概ねの傾向はわかると言えばわかる。
しかし実際に想像通りの味かと言ったらそうでもないものも多い。
例えば、酸度ひとつ取ってもわからないことは多い。
裏ラベルに酸度が書かれていたとしても、何由来の酸なのかは皆目検討もつかない。
数値的には高いなと感じたとしても、生酛造りだから酸が高いのかもしれないし、雑な管理をされていて酸が高いのかもしれないし、あるいは白麹を使っていて酸が高いのかもしれない。
例を挙げた3つをとってもどれも違う酸でありまるで味わいの違う酸であることは言うまでもない。
(実際には、生酛だったら概ね生酛って書いてあるし、白麹使ってたら概ね白麹使ってるって書いてあるだろうけど)
一般消費者に示されているものは、アルコール度数、日本酒度、酸度、「生酛」「辛口」「淡麗」「芳醇」「純米」「大吟醸」などのラベルだけ。
それ以外にもいくつか書かれていたとしても、それだけでは消費者は(日本酒の知識を持っていたとしても)判断し得ない。
特に「辛口」に至っては概ね日本酒度が高いことを指すはずが「辛口と書いた方が売れる」という理由で辛口でなくても辛口と表記するとも聞く。
それでなくても巷では辛口論争が絶えないというのに…。
酒質は設計と経過と蔵の特性によって決まる。
なので設計と経過と化学分析結果を主成分分析すれば、酒質を甘辛濃淡では表しきれない新しい複数の指標でクラスタリングすることが出来る。
飲みたい酒質が明確にある消費者にとっては趣向に合う酒を探しやすくなる。
日本酒初心者にとっては自分の趣向を探す手助けになる。
海外展開などをする時にも興味を持ってもらいやすい指標になると思う。